痛みの原因として最も多いのは皮下出血による局所の膨張です
採血時に患者さんが強い痛みを訴えた場合、その原因としてまず考えられるのは、針刺入部位からの血液漏出から起こる、皮下出血による局所の腫張で、ほとんどのケースがこれにあたります。腫れが見られる場合は、まず間違いないでしょう。
次に、採血の際に誤って近くを走る神経を損傷した場合が考えられます。この場合は、皮下出血や腫張を伴いません。そのほかでは、採血部位の局所感染、炎症も起こりえる合併症などが挙げられますが、極めて稀で、発赤や圧痛の範囲などから鑑別が可能です。
皮下出血には、「太い注射針を使用した」、「切れの悪い針を使用した」、「血管を穿通し、複数の穴を作ってしまった」、「駆血帯をつけたまま、針を抜いてしまった」、「患者さんが血液凝固障害あるいは止血機能障害を有している」、「アスピリンや血小板機能に影響する消炎鎮痛剤、あるいは抗凝固薬を服用中」…などの可能性が考えられます。
腫張の場合、最初は赤みがかった色をしていますが、徐々に暗紫赤色から暗紫色と変化し、やがて茶褐色の色素沈着を経て消えますが、腫張が著しい場合は痛みが続きます。特に血液凝固異常や血小板機能不全のある患者さんの場合、こうした状態になりやすいうえに、痛みが消えるまでの時間も長くかかります。
しかし、血液凝固機能や止血機能になんら異常のない患者さんの場合、出血が長引くこともないため、対症療法で時間経過とともに消えていきます。局所を高めに保って静脈うっ滞を避け、場合により局所を冷やしたりしますが、痛みのために鎮痛薬が必要になることはほとんどありません。
健診の採血などで遭遇することは極めて稀ですが、注射などのちょっとした痛みがきっかけとなって激しい痛みや萎縮が発生するRSD(反射性交感神経性萎縮症)という病態もあります。